海外営業物語!孤独な週末にブルースを聞きに行こう!(2)

海外営業物語

ハウス・オブ・ブルースに到着!

時刻は午後6時を過ぎていた。ダウンタウンの路肩に車を止めた俺は、アメリカ製の低品質なカーナビに頭を悩ませていた。ダウンタウンで移動する度に自分の居場所を探し始めるカーナビ。俺よりもこのナビの方が迷子になっている。

こいつに頼っていたら一生目的地に辿り着けないだろう。俺はポケットからiPhoneを取り出して、Googleマップを立ち上げた。Googleマップなら、俺をハウス・オブ・ブルースまで無事に連れて行ってくれるはずだ。

細心の注意を払いながら、iPhoneを片手に運転すること約5分。Googleマップを使ったら、拍子抜けするくらい簡単に目的地に到着することが出来た。

ほっと一息ついた俺だったが、ハウス・オブ・ブルースを目の前にして、1つ重要な疑問が湧いて来た。

「車はどこに止めれば良いんだ?駐車場はどこだ?」

アメリカに赴任して来て約2か月。俺は、郊外での生活を車で謳歌して来た。IKEAで家具を買い揃え、スーパーで食材を購入し、ショッピングモールで洋服を買い揃えた。

全ての移動は車で行い、何の疑いもなく併設された広大な駐車場に車を止めて買い物をして来た。

しかし、アメリカのダウンタウンは東京の一等地と同じくらい人と建物でごった返しており、当然レストランの横に駐車場を設置するスペースなどない。

既にレストランの敷地内に車で侵入してしまった俺には、Uターンして一般道に戻る事は出来なかった。そんな事をしたら、不審者扱いされるだろう。他に選択肢のない俺は、フロントガラス越しにサインを送る従業員の指示する場所に車を止め、運転席の窓を開けた。

「調子はどうだい?駐車場代は30ドルだよ。」

従業員はそう言って手を差し出した。俺は黙って財布から30ドルを取り出し、言われるがまま彼に手渡した。

こんな店の目の前に車を停めて良いのか?

俺は疑問に思いながらも、あたかもこの店の常連であるかの様に堂々と振る舞うしかなかった。おどおどして初心者扱いされたくはない。

「ありがとう!じゃあ、車の鍵をくれる?」

従業員のこの発言に、俺は戸惑った。自分の車の鍵を渡してしまったら、車が盗まれてしまう。俺の車は会社が代金を支払っているリース車だが、さすがに盗難に会えば俺も罰金を払わされるだろう。

この従業員が車の鍵を使って何をするのか、質問したい衝動に駆られたが、この店の常連を気取っている俺には、そんな質問をする勇気はなかった。俺は黙って車の鍵を手渡した。

「ありがとう。これが車の引換券。食事が終わったらまた俺に返してね。」

店員は爽やかに言うと、俺の車に乗り込んで隣の塔に走って行ってしまった。よく見ると、店の隣に塔が建っており、そこに無数の車が所狭しと駐車されていた。目の前で自分の車が他人に運転される様子に呆気に取られながらも、俺は平静を装ってレストランに入った。

バレーパーキング

レストラン内の席に座ってビールを注文した俺は、左手に握りしめている車の引換券を改めて見た。そこには、バレーパーキングと記載されている。

 「バレーパーキング?なんだそれ?」  

俺は早速iPhoneでバレーパーキングをググった。

バレーパーキングとは、駐車を係員にお任せできるサービスです。ホテル、レストラン、カフェ、コンサートホール、病院、カジノ、ショッピングモールなどで見かけることができます。

「駐車を係員に任せる…自分の愛車の鍵を他人に渡すってことか。」

俺にはアメリカ人の感覚が理解出来なかったが、この説明によると、取り敢えず車が盗まれた訳ではないらしい。バレーパーキングの仕組みを知った俺の心は、ようやく落ち着いた。

レストラン内はかなり混雑しており、俺はバーテンダーがいるカウンター席に案内されていた。注文したビールを飲みながら周囲をキョロキョロ見渡したが、どうやらまだブルースの演奏は始まらないらしい。

ステージ上ではバンドが音程のチェックをしている。彼らの準備が整い次第、演奏が始まるようだ。

カップルや仲間と一緒に食事を楽しむ客が殆どだったので、1人でじっと演奏が始まるのを待つのは心細かったが、ここまで来たら図太い神経で堂々とするしかない。俺は店員にバッファローウイングとシーザーサラダを注文して、演奏が始まるのを待った。

人生初のブルース

辛口のバッファローウイングとカロリー満点のシーザーサラダを堪能していると、徐々に音程チェックしていた楽器がメロディーを奏でる様になって来た。演奏開始前の最後の音合わせだ。

それなりに広い店内ではあるが、楽器の音は思った以上に大きく、演奏が始まると普通の声で会話することは出来ない。観客は徐々にステージに注目し始めた。そして、ついにブルースの演奏が始まった。

生まれて初めて聞いたブルースは、とにかく迫力満点だった。俺は音楽に詳しくないので、バンドが演奏している楽器名すら分からない。だが、音楽を楽しむのに知識は必要ないと言う事を、ハウス・オブ・ブルースは教えてくれた。

日本から1万キロ離れた異国の地アメリカで、1人勇気を出してレストランに飛び込み、謎の駐車場システムを乗り越え、ビールを飲みながら聴いた人生初のブルース。俺は感動していた。この状況で感動しない訳がない。

1時間半後、俺は大満足でハウス・オブ・ブルースを後にした。次のバンド、また次のバンドと、演奏はまだまだ続いていたが、夜も更けて暗い中、車で1人郊外まで帰らなければならない。アメリカ生活の短い俺は、安全を見て夜8時には帰路についた。

帰りの高速は渋滞も無く、実に気持ちの良いドライブだった。クルーズコントロールを使ってドライビングしながら、俺は今日聴いたブルースを口ずさんだ。新しい事をするには勇気が必要だが、必ずそれに値する感動を与えてくれるものだ。

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K

共働きの妻と愛する子供を持つバイリンガルパパ(TOEIC950点、英検1級)。家事、育児、仕事と毎日忙しく奔走中。忙しすぎて風邪でダウンする事が時々ある。10年の海外営業経験を活かし、ブログでは英語学習のノウハウ、幼児英語教育(おうち英語)、海外営業の関する情報を提供しています!